この照らす日月の下は……
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「……中に人がいるようだがな」
ディアッカがそうつぶやく。
「民間人なら手出しをするな。ただ、こいつを治療できればそれでいい」
イザークはそう言いながら片腕で支えているラスティへと視線を向けた。
「そうだな」
ディアッカもそれには異存はないらしい。
「相手がナチュラルでもな」
そう付け加えると、彼は強引に扉を開けた。その瞬間、殺気が向けられる。
「ザフトが何の用だ?」
そして厳しい声が飛んできた。
声の方向へ視線を向ければ、自分たちとそう変わらない青年の姿が確認できる。その体躯や隙のない様子から判断して、自分たちと同じような訓練を受けた人間だろう。
青年の後ろに恐怖を隠しきれない少年少女達が確認できた。
間違いなく彼等は民間人だ。そんなメンバーを守るために青年は自分たちに殺気を向けているのだろう。
「お前らに危害を加えるつもりはない。ただ、ここに設置されている応急セットを一つ、譲ってほしいだけだ」
ディアッカが出来るだけ柔らかな声音を作りつつ言葉を発した。
「何であんた達に!」
奥にいた少女の一人がこう叫ぶ。
「あんた達が攻めてきたせいで、あたし達はこんなところに逃げ込む羽目になったのに!」
確かにそれは事実だ。
「……頭を撃たれてている。少しでも早く手当てをしないと、命が危ない」
イザークは不安を押し殺しながらそう告げる。
「いいざまだわ! あたし達の日常を壊した連中なんて……」
赤毛の少女はさらに何かを口にしようとした。それがこちらの怒りを煽っていると自覚しているのだろうか。
「フレイ、ダメだよ」
目の前の青年と兄妹なのだろうか。よく似た印象の少女がそう言ってフレイと呼ばれた赤毛の少女をなだめている。
「でも、キラ……」
「そんな悲しいことを言っちゃダメだよ。人の死を望むような言葉もね」
「そうよ、フレイ。小指を角にぶつけて悶絶するくらいでとどめておかないと」
じみに嫌な呪いをかけられた。イザークは心の中でそうつぶやく。
「キラ……ミリィ」
そう言いながら、フレイが二人に抱きつく。
「とりあえず、必要なものはくれてやる。だから、さっさと立ち去ってくれるか? お嬢さん達にはお前達の存在がマイナスだからな」
青年の言葉に残りの二人の少年が奥からトランク大のケースを引っ張り出してくる。
「……これでいいんだろう」
「早く出て行ってくれませんか?」
それをイザーク達の方へと押し出しながら彼等はそう言う。
「ちょっと待って」
キラがそう言いながら壁の一部を操作している。
「キラ?」
「そのままだとその人、危ないから……せめて振動を与えないようにこれを使って」
そう言いながら彼女はイザーク達の方へ浮遊担架を移動させた。
「あ、りがとうよ」
ディアッカがすぐにはその状況を飲み込めないのか、こんなセリフを口にしている。
「たとえ誰であろうと、一人でも多く生きていてほしいから」
たとえ偽善と言われても、と彼女は続けた。
「いいんじゃね? お前はオーブの人間だ。俺たちとは違っていても当然だし」
ようやくいつもの調子を取り戻したらしいディアッカがそう言い返す。
「そうだな。そのおかげで俺たちも友を失わずにすむ」
イザークもまたこう口にする。
「騒がせて悪かったな」
この言葉とともにこの場を引き上げることにした。
「ここは攻撃しないように言っておく」
それが謝罪になるとは考えてはいない。それでもそう言わずにいられないのだ。
「さっさと行け!」
帰ってきたのはこんなセリフである。それも仕方がないことだろう。
「行くぞ」
ディアッカの言葉とともに再びシェルターのドアを閉める。
「ナチュラルが皆ああなら良かったのにな」
思わずこうつぶやいてしまう。
「二人はコーディネイターだろう」
担架にラスティの身体を横たえながらディアッカがこう言ってきた。それがキラとあの青年のことを指しているのだというのは確認しなくてもわかる。
「そんなの関係なかったようだが?」
「確かに」
「ともかく、ラスティの治療が出来る場所まで移動するぞ」
それから任務を果たすと告げるイザークにディアッカもうなずいて見せた。
彼等とすぐにまた再会するとはこのときの彼等は全く予想できなかった。